聖トマス・アクィナスの誘惑 (ベラスケス)

『聖トマス・アクィナスの誘惑』
スペイン語: La tentación de Santo Tomás de Aquino
英語: Temptation of St. Thomas
作者ディエゴ・ベラスケス
製作年1632年
種類キャンバス上に油彩
寸法244 cm × 203 cm (96 in × 80 in)
所蔵教区美術館(英語版)オリウエラ

聖トマス・アクィナスの誘惑』(せいトマス・アクィナスのゆうわく、西: La tentación de Santo Tomás de Aquino, : Temptation of St. Thomas)は、スペインバロック絵画の巨匠ディエゴ・ベラスケスが1632年にキャンバス上に油彩で制作した絵画である。画家が第一回目のイタリア遊学後の作品で、イタリアで学んだ優美な様式を留めている[1]。主題は、『神学大全』の著者として知られる聖トマス・アクィナス (1225年ごろ-1274年) の若いころの逸話である。作品は、スペイン南部オリウエラにある教区美術館(英語版)のに所蔵されている[1][2]

作品

マドリードの宮廷で職を得て以来、ベラスケスの制作の中心は肖像画におかれ、宗教画は『十字架上のキリスト』、『聖母戴冠』(ともにプラド美術館) などわずかしか手掛けられなかった。エル・グレコムリーリョスルバランなど16世紀後半から17世紀後半までのスペインの主要な画家たちの全作品中、85%以上が宗教画であることを考えれば、ベラスケスが異例の制作をしたことが理解できる[3]

本作は、ベラスケスが制作したわずかな宗教的主題の作品のうちの1点である。しばらくの間、ムルシアの画家ニコラス・デ・ビリャシス(英語版)に帰属されていたが、1920年代になってベラスケスの作品であると認められた。聖トマス・アクィナスは若かった時に托鉢僧にあこがれてドミニコ会に入るが、反対した兄弟たちは諦めさせようと僧房に娼婦を送り込んで誘惑させる[1]。画面背景のドアのところに描かれているのが娼婦である。トマスは燃える薪を暖炉から取って、彼女を退ける。そして、壁に十字架を描いて、自身の童貞無垢を神に祈るやトランス状態に陥った。画面中央には、そこに現れた天使たちによって救われる白の僧服、黒のマント姿のトマスがいる。彼は1人の天使により抱かれ、さらにもう1人の天使が貞節を表す白いリボンを彼に着けようとしているところである。画面手前には、煙が立つ薪、書物やペンなどが見える。背景の娼婦は逃げようとしている[1][2]

本作は、ベラスケスのよく知られている作品のうちに数えられる[4]

脚注

  1. ^ a b c d 大高保二郎・川瀬祐介 2018年、21頁。
  2. ^ a b “La Tentación de Santo Tomás de Aquino”. オリウエラ教区美術館公式サイト (スペイン語). 2024年2月17日閲覧。
  3. ^ 大高保二郎・川瀬祐介 2018年、56頁。
  4. ^ Lowe, Alfonso; Seymour-Davies, Hugh (2000). The Companion Guide to the South of Spain. Companion Guides. p. 345. ISBN 1900639335. https://books.google.com/books?id=Vy_v0vWgkzsC&pg=PA345 

参考文献

  • 大高保二郎・川瀬祐介『もっと知りたいベラスケス 生涯と作品』、東京美術、2018年刊行、ISBN 978-4-8087-1102-3
  • Velázquez, Catálogo de la Exposición. Museo del Prado. (1990) 

外部リンク

  • オリウエラ教区美術館公式サイト、ディエゴ・ベラスケス『聖トマス・アクィナスの誘惑』 (スペイン語)
  • Velázquez , exhibition catalog from The Metropolitan Museum of Art (fully available online as PDF), which contains material on this painting (see index)
ボデゴン

『3人の音楽家』(1617-1618年)  · 『昼食』(1617-1618年)  ·卵を調理する老女』(1618年)  ·セビーリャの水売り』(1620年頃)

宗教画

『無原罪の御宿り』(1618-1619年)  · 『パトモス島の聖ヨハネ』(1618-1619年)  · 『マルタとマリアの家のキリスト』(1618年)  · 『東方三博士の礼拝』(1619年) ·キリスト教の魂により見つめられるキリスト』(1628-1629年)  ·ヨセフの衣を受けるヤコブ』(1630年)  · 『十字架上のキリスト』(1631-1632年)  · 『聖トマス・アクィナスの誘惑』(1632年)  ·聖アントニウスと隠修士聖パウルス』(1634年頃)  · 『聖母戴冠』(1635-1636年)

歴史画・神話画

バッカスの勝利』(1628-1629年頃)  ·ウルカヌスの鍛冶場』(1630年)  ·ブレダの開城』(1634-1635年)  · 『軍神マルス』(1638年頃)  · 『イソップ』(1639-1640年)  · 『メニッポス』(1639-1640年)  ·鏡のヴィーナス』(1647-1651年頃)  ·アラクネの寓話』(1657年頃) · 『メルクリウスとアルゴス』(1659年頃)

王家の肖像画

『フェリペ4世 (1623年)』(1623年)  ·ドン・カルロス親王の肖像』(1626-1627年)  ·ハンガリー王妃マリア・アンナの肖像』(1630年頃)  ·茶と銀の装いのフェリペ4世』(1631-1632年)  ·皇太子バルタサール・カルロスと小人』(1632年)  ·狩猟服姿のフェリペ4世』(1632-1634年)  ·狩猟服姿の枢機卿親王フェルナンド・デ・アウストリア』(1632-1634年)  ·皇太子バルタサール・カルロス騎馬像』(1635年)  ·狩猟服姿の皇太子バルタサール・カルロス』(1635-1636年)  ·フェリペ4世騎馬像』(1635-1636年頃)  ·フラガのフェリペ4世の肖像』(1644年)  · 『王妃マリアナ・デ・アウストリア』(1652-1653年)  · 『マリア・テレサ王女』(1652-1653年)  · 『フェリペ4世 (1653年)』(1653年頃)  ·ピンクのドレスのマルガリータ王女』(1653-1654年)  ·ラス・メニーナス』(1656年)  ·皇太子フェリペ・プロスペロの肖像』(1659年)  ·青いドレスのマルガリータ王女』(1659年)

王家以外の肖像画

修道女ヘロニマ・デ・ラ・フエンテ』(1620年)  ·ドン・ルイス・デ・ゴンゴラの肖像』(1622年)  ·ドン・フアン・マテオス』(1632-1633年頃)  ·道化ドン・フアン・デ・アウストリア』(1632-1633年頃)  ·道化バルバローハ』(1633年)  ·フアン・マルティネス・モンタニェースの肖像』(1635年頃)  ·道化パブロ・デ・バリャドリード』(1635年頃)  · 『男性の肖像』(1635年頃)  ·オリバーレス伯公爵騎馬像』(1636年頃)  · 『オリバーレス伯公爵ガスパール・デ・グスマン』(1636年頃、または以降)  · 『オリバーレス伯公爵の肖像』(1638年頃)  · 『道化カラバシーリャス (プラド美術館)』(1635-1639年) ·道化ディエゴ・デ・アセド』(1640年頃) · 『扇を持った女性』(1637-1640年頃)  · 『お針子』(1635-1643年)  ·道化セバスティアン・デ・モーラ』(1644年頃) ·バリェーカスの少年』(1635-1645年)  ·フアン・デ・パレーハの肖像』(1650年頃)  ·インノケンティウス10世の肖像』(1650年頃)

風景画

『ヴィラ・メディチの庭園、ローマ』(1630年頃)